【最新人流データの活用事例集】地域課題を解決する事例まとめ ~観光・交通・安全対策など~

更新日 公開日
執筆者 片岡 義明
【最新人流データの活用事例集】地域課題を解決する事例まとめ ~観光・交通・安全対策など~

本記事では、国土交通省が2024年春に公開した「人流データ利活用事例集」をもとに、観光・交通・防災などの分野で自治体が取り組む人流データ活用事例をご紹介します。従来のGIS(地理情報システム)だけでは見えづらかった“リアルな人の動き”を可視化することで、どのように地域課題の解決や施策の効果向上につながるのか、ポイントを分かりやすく解説していきます。記事の最後には、クロスロケーションズが取り組む人流データ活用についても紹介していますので、ぜひあわせてご覧ください。

INDEX

人流データ利活用事例集とは

国土交通省は2024年春に「人流データ利活用事例集(PDF)」を公開しました。

この事例集は、行政機関や地域団体などが「人流データを使いこなすのは難しそう」と感じている状況を踏まえ、実際にどのような課題解決が期待でき、その成果として何が得られるのかを事例形式で示すことで、人流データの積極的な利活用を促す目的があります。

収録されている事例は「観光・地域活性化」「交通」「防災・防犯」「3Dモデルとの組み合わせ」「環境」「その他」の6分野に分類され、継続性があり他地域にも参考になる最新の取り組みが集められています。関係者へのヒアリングなどを通じて得られた情報をもとに、背景や目的、取得データ、具体的な取り組み内容、課題、効果、今後の展開などが詳しく紹介されており、本記事ではそれぞれの事例の概要を分かりやすくまとめてお伝えします。

観光・地域活性化に関する人流データ活用事例

[1]静岡中心市街地の持続可能な活性化に向けた人流データの取得・分析の社会実装事業(静岡県静岡市)

まちの空洞化や来街者の減少が課題となっている静岡市において、タクティカルアーバニズムの実践に人流データを活用しました。タクティカルアーバニズムとは、小さなアクションからスタートしてデータ利活用による検証・検討を繰り返しながら課題解決に取り組むまちづくりの手法を意味します。この社会実装事業では、その取り組みの結果を広範かつ簡易に計測・分析するのに人流データが有効であるかどうかが検証されました。

人流データの計測手法は、静岡市中心市街地の各所にWi-Fiパケットセンサーを設置して通行量や滞在時間、ポイント間の回遊、移動速度を計測した上で、手動計測およびカメラの画像解析により通行量を補正し、これをもとに回遊量も補正しました。さらに携帯電話から収集した位置情報データをもとに性別・年代などの属性も把握した上でWi-Fiパケットセンサーのデータに反映しました。

この結果、社会実験やイベントによる街への波及効果を可視化することが可能となり、さらに土地利用情報や不動産情報を重ね合わせることで街の特性も分析することができました。例えば歩行者交通量と飲食物販店舗の密度・割合および賃料・路線価は相関関係にあることや、歩行者交通量と駅からの距離にも相関関係があること、駅から遠くても交通量および賃料が上昇している場所もあることなどがわかりました。

「令和3年度人流データを活用したモデル事業成果(静岡市)」
引用元:「令和3年度人流データを活用したモデル事業成果(静岡市)」https://www.geospatial.jp/ckan/dataset/r3jinryumodel-shizuoka

[2]混雑の見える化と回遊の促進(栃木県佐野市)

人気店舗への客の集中や待ち時間の長さが課題となっている佐野市の商店街や飲食店において、佐野市の名物「佐野らーめん」の店に訪れた客を市内周遊につなげることを目的として、混雑状況の可視化に取り組みました。市内のラーメン店約90店舗の場所や開店状況をマップ上に表示するとともに、そのうち約20店舗に人工知能(AI)カメラおよびデジタル整理券システム、店員入力のボタン型デバイスのいずれかを設置しました。

これらの機器やシステムから得られた混雑情報をアップロードすることにより、デジタルマップに待ち人数や待ち時間、混雑状況がリアルタイムに反映され、スマートフォンやパソコンを使って確認できるようにしました。

この検証の結果、デジタル整理券システムでは平時順番待ち受け受付数に対してメール通知の登録が行われている割合が20%程度だったのが、GW期間など待ち時間が長い日は40~50%程度まで増加し、回遊の創出が期待できる結果となりました。また、期間内においてPV数の多い人気店舗とPV数の少ない店舗を比較したところ、PV数の少ない店舗のほうが、PV数が大きく増加し、これまで知名度の高くなかった店舗にも関心が寄せられたことが推測されます。

さらに、アンケート結果によると、「空き状況を参考にして決めた」という回答が2番目に多く、ユーザーの混雑状況配信への興味が高いことも確認できました。

[3]イベントの効果測定(東京都新宿駅サザンテラス口)

イベントの効果測定や駅周辺テナント誘致などを目的として鉄道会社が行っていた駅前通路の人流調査を、人力からAIカメラによる調査へと置き換えました。これまでは「調査日数が少なく季節波動のデータが取得できない」「人件費がかかる」「24時間正確にカウントできない」といった課題がありましたが、商業施設内にAIカメラを設置して画像解析を行うことにより、リアルタイムで利用者の属性情報や滞在時間などの利用状況を可視化し、265日24時間データを取得することが可能になりました。

この結果、イルミネーション導入において点灯開始以降に10%以上の人流の増加が確認され、効果を定量的に示すことができました。

[4]人流データ駆動型“歩いて楽しめる安全・快適なまちづくり“(愛知県岡崎市)

来街者が増加している岡崎市中心部のQURUWA地区において、回遊離脱の発生およびサイクルシェア運営の最適化を目的として、人流データを活用した課題の深掘を行いました。ビーコンから取得する位置情報データおよび人流計測用カメラやサイネージ閲覧データ取得用カメラ、サイクルシェアの行動データ、車載カメラなどを組み合わせた道路交通データおよび混雑統計データを活用し、利用件数・売上の細分化や時間帯別利用件数、ステーション別利用割合、リピートユーザー特性、混雑度マップの比較などの分析を行いました。

分析の結果、リピートユーザーは長時間と短時間の利用を兼ねるハイブリッド型が多いことが確認され、サイクルシェアの売上向上・安定化のため、リピート利用が見込める市内居住者の長時間利用者を増やすことを課題として設定しました。この課題を解決するため、「市内居住者の短時間ユーザーを増やすことでハイブリッド型ユーザーとなり、長時間の利用が増えて売上が向上する」という仮説を設定し、混雑統計データをもとに、新たに市内の大規模集合住宅にサイクルステーションを新設して利用傾向を分析したところ、長時間利用するユーザーが増えることが立証されました。

また、混雑統計データと人流分析カメラのデータで分析したところ、回遊離脱が発生している地点が確認され、とくに20代と30代の回遊離脱が大きいことが確認されたため、サイネージを活用して店舗紹介などの魅力発信を行い、QRコードからウェブサイトへの誘導などを行いました。人流分析カメラおよびビーコン反応ログ、GPSデータをもとに行動変容が起きたかどうかを検証したところ、施策実施による変化と推察される分析結果が複数見られましたが、統計的な傾向として有意な差は少ないという結果となりました。

「令和3年度人流データを活用したモデル事業成果(岡崎市)」
引用元:「令和3年度人流データを活用したモデル事業成果(岡崎市)」https://www.geospatial.jp/ckan/dataset/r3jinryumodel-okazaki

[5]外出したくなる・移動しやすい安全なまちづくり(東京都板橋区)

東京都板橋区の高島平エリア内に15台のWi-Fiセンサーを設置し、3年間にわたって人流の増減や回遊、滞在傾向などのデータを計測するとともに、駅前においてアンケートも実施しました。計測した人流データはBIツールを用いて可視化し、関係者と共有しました。長期間にわたって人流計測を行うことにより、イベント実施時の回遊状況などをモニタリングできており、Wi-Fiセンサーを設置した施設にも計測状況を伝えて参考にしてもらっています。

[6]”消費×総合交通×人流ビッグデータ”の重ね合わせによる先進過疎地・庄原の潜在需要の発掘実証実験(広島県庄原市)

広島県庄原市において、携帯電話から得られる人流データと交通・消費データを組み合わせることにより、地域の移動活発化や消費活発化のための施策立案や実施判断に役立てました。「観光」「地域内消費」「地域内移動」「住みやすさ」の4つについて課題やポテンシャルのビジュアル化を検証したところ、「コロナを背景としてキャンプ場など屋外資源の集客力が向上」「地域通貨非加盟店の来訪者が非常に多い」「鉄道駅周辺の歩行者が少ない」「大学生の行動範囲が狭い」といった課題やポテンシャルを把握することができました。

[7]地域経済の発展に向けたデータ公開(富山県富山市)

都市計画の立案に役立てるため、富山駅周辺および中心商店街周辺において52台のAIカメラを設置し、年間を通じた平日休日別・時間帯別の通行者の人数・滞留時間・属性をデータ化しました。従来は単発的に行われていた調査データを通年で取得することで、より精緻なデータが得られるようになりました。取得した通行量や属性データは富山市のウェブサイトにて一般公開されています。

[8]観光施策の検討(大阪府富田林市)

富田林市において、来訪者誘因施策を立案するためのデータとして携帯電話から得られる位置情報ビッグデータをもとに独自開発のAIにより生成した人流データを作成し、属性や移動経路など、さまざまな切り口で分析しました。分析の結果、周辺商業施設エリアや官公庁エリアへの来訪者数が多いことや、交通量の多い道路などを把握することができました。

また、移動経路を可視化したところ、50代は東西の移動が多いのに対して、60代以上は南北の移動が一定程度あることがわかりました。これによりターゲットとなる年齢層や滞留行動に関する課題が明確となり、新たな事業連携やプロモーションの指針を立てることができました。

2. 交通に関する人流データ活用事例

[1]バス交通網適正化(兵庫県神戸市)

神戸市のポートアイランドと三宮を結ぶ路線バスにおいて、スマートフォンのGPS位置情報をもとにした人流データを活用することにより、従来は捉えられていなかった需要と供給のギャップを可視化しました。この結果、全体的にピーク時間が想定よりも早く、ポートアイランド内の各エリアの事業所からの帰宅者のピーク時間がエリアごとに少しずつ異なることなどが明確になり、これをもとに時間帯別人流に応じて各バス停での停車便数を見直しました。この結果、対象の各運行系統において利用者数の増加を確認することができました。

[2]会津広域及びまちなかにおける人流データを活用した公共交通サービスの最適化(福島県会津若松市)

MaaS(Mobility as a Service)アプリのチケット利用者の移動データとバス車内でのBluetooth検知データ、AIオンデマンド交通アプリで得られたODデータ(出発地から到着地まで何人移動したかを示すデータ)、スマートフォンの位置情報をもとにしたODデータ、路線バス乗降調査結果、住基連動型GIS(地理情報システム)データなど複数のデータを組み合わせることにより、地域公共交通の課題を整理し、地域公共交通計画に反映しました。

「令和3年度人流データを活用したモデル事業成果(会津若松市)」
引用元:「令和3年度人流データを活用したモデル事業成果(会津若松市)」https://test.geospatial.jp/ckan/dataset/r3jinryumodel-aizuwakamatu

[3]交通事故対策(愛知県)

スマートフォンの位置情報をもとにした人流データを活用することにより、人や車の交通量を地図上に可視化しました。過去の交通事故発生状況と組み合わせることで具体的な危険箇所などを割り出し、効果的な交通事故抑止対策を図りました。具体的には、高齢者が多く行き来する場所や時間帯を、人流データを使って特定し、それにあわせてパトロール強化などの対策を行いました。この結果、2016~2020年にかけては毎年17~20人で推移していた“横断歩道を横断中の高齢者の死者数”が2021年は6人に減少しました。

[4]歩行空間利用調査及び停車帯における駐停車状況可視化(大阪府大阪市御堂筋)

大阪市御堂筋において、AIカメラを使ったAI画像解析サービスにより歩道の歩行者数や自転車通行数などを解析・可視化するとともに、駐停車車両の遠隔監視も行いました。歩行者や自転車の通行数を常時計測することにより、日別や時間帯別の変化や曜日ごとの比較を簡単に行えるようになりました。

3. さらに広がる人流データの可能性:防災・防犯・環境

事例集ではほかにも、防災・防犯への活用(災害時の避難ルート把握や犯罪多発地域の可視化)、3Dモデルとの組み合わせによる街づくりシミュレーション、環境分野(騒音・大気汚染と人流の関連など)といった幅広い活用例が紹介されています。

人流データは、GISだけでは得られない“動き”を可視化するため、将来のDXを見据えた街づくりやエリアマーケティングに大きなインパクトを与えると考えられます。

4. クロスロケーションズの人流データ活用事例

上記で代表的な事例を解説したように、国土交通省「人流データ利活用事例集」には自治体や地域団体による先進事例が多数まとめられています。しかし、実際には民間企業や自治体間で、より実務的なノウハウが求められる場面はまだまだ多いのではないでしょうか。

クロスロケーションズは、『実世界の人流』を可視化し、社会や産業が抱える課題を解決することをミッションとしています。当社独自の位置情報ビッグデータAI解析技術により、以下のような分野に役立つ人流分析を提供しています。

1. 出店計画・商業施設の集客戦略

来街者属性や時間帯別ピークの把握:店舗周辺の人流を多角的に分析し、出店候補地を選定。ターゲット層の滞在状況やピークタイムなどを可視化。
競合施設との実際の訪問シェアを比較:競合エリアの来訪状況と比較し、効果的な販促施策やレイアウト変更の効果を検証。

2.オフラインとオンライン広告の統合施策

ローカルイベントや施設運営での来訪者行動を可視化:周辺エリアへのDMやポスティング、スマホ広告などを最適化し、オフライン施策とオンライン広告の連携を強化。
オンライン広告からの来訪測定で広告効果を検証:従来計測が難しかった“広告接触 → 実店舗来訪”を位置情報データで把握し、地域活性化やマーケティング施策に生かします。

3. 公共交通・公共サービスの利用状況分析

路線バスやオンデマンド交通の利用状況を可視化:定期的に蓄積された人流データをもとに、どのエリアで乗降が多いか、曜日・時間帯ごとの利用傾向などを分析。停留所の見直しや運行本数の調整にも活用できます。
地域課題の把握と施策の検証:特定施設へのアクセス状況や公共サービスの利用動線を捉え、課題の抽出と改善策の効果測定に役立てられます。

4. 観光DX・地域活性化

観光客やイベント来場者の動向を把握:祝日・週末・季節イベントなど、特定期間における人の動きを分析し、混雑状況やピーク時の来訪属性を可視化。
複数スポットの利用実態をデータドリブンに検証:観光資源が分散する地域で、移動経路や滞在時間を把握し、新たな周遊ルート提案やエリア活性化施策を検討。

補足: 災害時や緊急対策での「リアルタイム」の把握は行っていませんが、必要に応じて前日までの蓄積した人流データを活用し、避難所周辺や主要導線の人流状況を把握するための分析支援も可能です。

このような人流データ活用事例の詳細を知りたい方や、自社・自治体における具体的な導入イメージを持ちたい方は、クロスロケーションズの「人流データ活用事例」特集や「Location AI Platform®」のサービスページをご確認ください。

5. まとめ:人流データを活用して地域課題を解決し、未来をつくる

国土交通省の「人流データ利活用事例集」には、観光・交通・防災・環境など多方面での成功事例が集約されています。自治体のみならず民間企業や地域団体にとっても、これまでのGISだけでは把握しづらかった動的な利用者動向競合状況を確認する大きなきっかけとなるでしょう。

  • GISが苦手としていたタイムリーな動向分析や属性分析を、人流データ×AIが補完
  • 地域課題に応じてWi-Fiセンサー、AIカメラ、携帯電話位置情報など多角的なデータを組み合わせることで地域課題にアプローチ
  • 観光・地域活性化から交通インフラ、防災、防犯、環境施策まで幅広く応用が可能

クロスロケーションズは、自治体や商業施設をはじめ、さまざまな現場で積み上げてきた豊富な人流データ活用事例と実績があります。出店計画・マーケティング戦略・公共サービス分析など、多岐にわたる課題を解決するための方法をご紹介していますので、ぜひ当社のサービスページもあわせてご覧ください。

今後も人流データを活用した取り組みは拡大していくと見込まれます。地域や業種に合わせた形で、Location AI Platform®人流アナリティクス®などの人流分析サービスを活用し、持続可能な街づくり・産業振興を実現していきましょう。

片岡 義明

専門新聞社や出版社勤務を経て、1999年よりフリーランスライターとして活動。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」、「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」が発売。インプレスより書籍「パソ鉄の旅~デジタル地図に残す自分だけの鉄道記~」、共著書「いちばんやさしい衛星データビジネスの教本」が発売。地図と位置情報を中心としたニュースサイト「GeoNews」主宰。

関連記事

お役立ち情報に関する記事

活用情報TOPに戻る
HOME > 活用情報 > 観光・自治体 > 【最新人流データの活用事例集】地域課題を解決する事例まとめ ~観光・交通・安全対策など~