GLOSSARY 用語集

ロケーショングラフ

ロケーショングラフ_Location Graph
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近年の多様化する顧客の好みに対応するため、市場を効果的に対象化し、適切な商品やサービスを提供するためには、STP戦略が採用されることがあります。その中でも、まずは市場を異なる特性やニーズを持つ顧客グループで識別するのがセグメンテーションです。

※1. STPは、S(セグメンテーション)、T(ターゲティング)、P(ポジショニング)の3つの英語の頭文字をとったマーケティングの用語です。

従来は、デモグラフィック(性別、年齢、収入など)やサイコグラフィック(ライフスタイル、価値観、活動など)などの基準に基づいて行われ、商品やサービスの開発から市場の選定や投入、マーケティングコミュニケーションやブランディングまで、広く・深く影響を及ぼします。特にコミュニケーション戦略においては、設定したセグメントごとにチャネルやメッセージを最適化しターゲティングしていくため、重要なテーマとなります。

新たなアプローチの必要性

現代は、デジタルマーケティングの時代になり、ソーシャルグラフ(SNSなどデジタル空間での人々の意見やつながりを見える化したもの)による個人の社会的な関係やコミュニティ内での影響力を把握して企業のマーケティングに活用する手法や、サーチグラフ(ユーザーのオンライン検索行動を分析したもの)のようなデジタル空間におけるユーザー行動の分析手法が一般化していますが、ロケーショングラフはこれらに一石を投じる新しい方法論になります。

ロケーショングラフとは

ロケーショングラフは、人々をセグメント化する際に地理空間情報を元に分類する​新しい概念です。この造語は、「ジオグラフ」が地理や地理学的なものを意味するのに対し、「ロケーショングラフ」は位置や空間情報を、学術的あるいはマーケティング的に有用なグループに区分する指標のひとつです。

ロケーショングラフの特徴

ロケーショングラフの特徴は、人々のリアルな行動に基づくセグメンテーションが可能だという点です。人がその場所にいた・いるという事実は、その人と場所とに何らかの関連があると推測されます。自宅、職場、学校、通勤・通学、イベント、お店、移動中など、現実世界で人々がいる場所を基準にして、プロファイリングを行い、ユニークなマーケティングのターゲットとしてグループ化して捉えることができます。

ペルソナの限界

マスマーケティング時代のデモグラフィックなアプローチから、人々のライフスタイルの多様化(ダイバーシティーやインクルージョン)の時代にはサイコグラフィックなアプローチが重要性を増しました。消費者の心理的、社会的特性を理解し、購買意欲を高め、収益拡大につなげることが可能とされてきたからです。

マーケター達は、顧客や潜在顧客のペルソナを挙げて、購入に至る文脈やストーリーを描いて、市場投入の戦略や販売促進キャンペーンのプランを作成してきました。しかし、ペルソナは個々の人々の特性や経験を反映したものではありますが、一人の人間を完全に表現するものではありません。同じ年齢や共通する特徴や趣味嗜好を持っているからと言って、マーケティングのターゲットとして同一視することの違和感は、具体的なふたりを並べてみると一目瞭然です。

What do Prince Charles and Ozzy Osbourne have in common?

出典:What do Prince Charles and Ozzy Osbourne have in common?

“リアルな”=“フェイクではない” 顧客像を理解する

では、オンラインの行動や関係性に着目するマーケティングはどうでしょうか? サーチグラフ、ソーシャルグラフ、ショッパーグラフといったアプローチです。デジタルのデータなので、把握もできるし客観的な数値として捉えることができるので、データドリブンマーケティングの時代には貴重で分かりやすいデータです。検索履歴のあるユーザーにおススメの商品広告を出す、とかフォロワーが10万人いるSNSのインフルエンサーに自社商品を紹介してもらう、などです。

しかし、メタバースの世界が浸透している現在は、オンラインのデータが万能というわけではありません。例えば、ロケーショングラフの観点から見ると、SNS上で高級ブランド品に「いいね!」を連発していたユーザーが、実はファーストファッションの店舗に頻繁に履歴があるヘビーユーザーだった、などと言うことも分かってしまいます。このユーザーは、現実世界では高級ブランドのターゲットではなく、ファーストファッションのターゲットに分類したほうがよい、と言うことにもなり得ます。
このことは、20代のほとんどがSNSの裏アカウントを持っている時代に(※1)、オンラインだけのマーケティング活動をすることのリスクと、ユーザーの現実世界の行動を理解することの重要性を気づかせてくれます。

「顧客の合理」と「非合理的な行動」

古典的な経済学や経営学の理論では、顧客は合理的で、自分にとって利益となるような判断をするため、企業側の合理で判断してはいけないとされてきました。これは顧客の声に耳を傾けない企業側への戒めとしては一理ありますが、近年の行動経済学などの研究では、個人の心理的な特性や好みは変動しやすく、それを維持することが難しい場合がある、と同時に、そもそも人々の判断や意思決定は認知バイアスによって非合理的である場合があるということも指摘されています。(※2)

また、最近の研究では、ユーザーは物やサービスを購入する際には、ただひとつの検討材料を吟味するわけではなく、さまざまな文脈に応じて多くの想起集合(context-specific evoked sets)を持っていることが指摘されています(※3)。

非合理的な行動をする我々にアンケートで質問をされても、その行動の理由が明らかになるとは限りません。しかし、エリアAに住んでいて、エリアBに勤務していて、平日は保育園Cに通い、週に2回はスーパーDに立寄り、月に1回はデパートEとガソリンスタンドFに行って、3か月に1度はキャンプ場に現れて…という”場所の特徴”を紐づけて文脈にしていくと、その人が何を嗜好し、何を購入したいか、が見えてきます。ビックデータを解析すれば、次にどこに行きたいのか? どこに住みたいのか? などを予測することも可能です。

たとえ理由がわからなくてもその人がそこにいる事実(データ)を読み解くことができれば、未来を見渡すことができるーロケーショングラフはまさにAI時代の最有力なマーケティング手法なのです。

(※1)20代の96%が裏アカを所持!年代別SNSアカウント所持数についての実態調査

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000108657.html

(※2)認知バイアス

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%82%B9

(※3)context-specific evoked sets
How brands grow. Part 2, Jenni Romaniuk, Bryon Sharp, 2016

Table of Contents: How brands grow. (uchicago.edu)

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