新たな事業や店舗を展開する際に出展地域がビジネスを行う場所として最適な地域かどうかを判断するにはどのような方法があるのでしょうか。店舗開発において立地調査や商圏調査は重要な役割を持ちます。こちらの記事では、初めて出店する地域でも重要な情報を効果的に把握できる人流データの活用についてわかりやすく解説いたします。
立地調査とは
立地調査とは、新しい店舗や施設を開設する際に、その場所の地域特性や適切な位置を検討するために行われる調査です。具体的には、人口統計、競合店舗の存在、周辺環境、アクセスの便利さ、交通量などの要因を評価し、事業展開の成功を見込むための場所を見つけるプロセスを指します。また、商圏調査は、特定の店舗や施設が影響を与えるであろう地域(商圏)を理解するための調査です。
新店舗の出店計画に欠かせない立地調査
昔から商業の世界では「立地7割」という言葉があるように、店舗の立地条件はビジネスの成否に大きく影響を及ぼします。そのため多くの企業は、出店候補地において売上が見込めるかどうかを見極めようと入念な事前調査を行います。
しかし、これまで行われてきた従来のGIS(地理情報システム)を活用した商圏分析や統計情報だけでは、変化した出店候補地周辺で活動する消費者の行動や心理を捉えるのが難しくなっています。ここでは、出店戦略時の立地調査において人流データを活用することで変化した今を捉えることができる新しい立地調査の概要やその手法についてご紹介致します。
立地調査を行う重要性
立地調査を行うことで、どのようなことが分かるのでしょうか。例えば、出店前の特定の地域に出店することで「どれくらいの利益を見込めるのか」、「どのような客層が訪れるのか」、「どのような店舗にすれば人を呼び込めるのか」、「周囲に競合店はどれくらいあるのか」といった出店前に知りたい重要な情報を事前に調査することができます。
また、既存店においては、店舗周辺の商圏調査を行うことで、地域ごとの特性や課題など、周辺地域の今の状態を把握することができるため、今後の販売戦略に役立たせる重要な情報となるのです。
複数店舗における立地調査
複数の店舗を展開している企業の場合では、各地域の商圏ごとの特性を人流データを利用して比較することができます。これにより売上の良いエリアに似た条件の土地を探すことで独自の最適な出店候補地を見つけることが可能となります。
また、各店舗の集客を行うためにチラシやダイレクトメールなどの販促活動を行う際には、店舗周辺の商圏分析を行った上で、高い集客効果を見込めるエリアに向けたチラシを配布することで効果的なプロモーションを実現することができます。
立地調査・商圏調査に使われるデータ
出店戦略で行う立地調査や商圏調査では、顧客や店舗に関する多種多様なデータを地図上に表示させてグラフ化にしたりすることで、出店を検討している場所の市場規模や地域特性、ポテンシャルなどの分析を行っていきます。ここでは、立地調査に使われる代表的なデータから本記事で紹介している人流データについて挙げていきます。
統計データ
国勢調査などの統計データを用いることにより、エリア周辺の居住者人口や世帯数、年齢層の比率などを調べることができます。昼間人口データや年収データ、商業人口などさまざまなデータがあります。行政が提供する無料データもあれば、民間企業が独自に調査したデータや、独自技術により将来の人口を推計した未来予測データなど、有料で提供されているものもあります。
店舗データ
同業他社の店舗データを地図上に可視化することで、出店候補地の周囲に存在する競合店の状況を調べられます。また、自社店舗のデータもあわせて地図の上に配置することにより、カニバリゼーション(共食い)の可能性なども検討できます。飲食店や病院・クリニックなどの場合は、料理ジャンルや診療科目など種別がわかるデータも必要となります。
地図データ
データを可視化する背景として必要となるのが地図のデータです。地図は、調べたいエリアの現状や店舗間の位置関係、駅やバス停との位置関係を視覚的に把握する上で重要な情報源であり、家形(建物の形)や地形が書かれたものなど、調べる内容にあわせて適正なものを選ぶ必要があります。
人流データ
多くの人が携帯するスマートフォンの端末から得られる位置情報データを集計することにより、出店エリアにおいてどの時間帯にどれくらいの人数が通行しているのかを把握し、これを地図上に可視化することで出店戦略に役立てることができます。ユーザーが利用しているアプリが収集した位置情報データや、携帯電話の基地局情報、Wi-Fi接続サービスの情報など、さまざまな種類のデータがあります。なお、ロードサイド型の店舗の場合は、カーナビやスマホ用ナビアプリなどから収集した走行実績データを活用します。
上記で紹介した様々な分析データは、データプロバイダーが有料で販売しているものもあれば、オープンデータとして公開されている無料データを独自に統計処理を行い分析して活用するもの含まれます。また、上記以外にも様々な情報がありますが、データを上手く取り扱う企業では、ブランド毎の会員データやPOS(購買)データなど企業が保有しているデータを利用した立体的な分析も行っています。
立地調査における人流データを活用した商圏分析
飲食店や小売店などの店舗ビジネスにおいて、周辺エリアの状況を把握するために役立つ“商圏分析”ですが、店舗経営者やフランチャイザーは、商圏分析で用いる静的な基本データ以外にもこれまでは実地での通行量調査や統計データを活用した商圏分析を行うことで店舗周辺の顧客層や購買傾向を分析し、販促活動や業務効率化の推進、出店戦略の立案、設備投資の判断などに役立ててきました。
しかし、従来の分析手法では、「実地調査にコストがかかる」、「統計データが実状に即していない」といった課題があり、近年では、より実際の状況に合わせた分析を素早く低コストで行えるスマホの人流データをメインとした商圏分析が注目されるようになりました。
出店候補地の立地調査を行うための商圏分析
商圏分析とは、統計データや顧客情報などを活用して特定エリアの購買傾向や地域特性などを把握するための分析を意味します。既存の店舗だけでなく出店計画における新規出店候補地の分析も可能で、GIS(地理情報システム)ソフトやクラウドツールなどを用いて地図上に店舗の位置や出店を検討している地域をマッピングし、そこにさまざまなデータを載せた商圏レポートとして候補地の周辺状況を可視化しています。また、それらの商圏分析を元に将来の売上予測や販促効果などを分析することに利用されています。
人流データを出店戦略に活用
GISを使った商圏分析では、これまで統計データや店舗データを使った分析が主流でしたが、近年はスマートフォンの普及により、人流データを活用する動きが高まっています。
スマートフォンの人流データが普及する以前からも、企業が出店にあたってプロのリサーチャーに依頼し、人出の変化や情報を知るために通行量調査を行うケースはありましたが、このような通行量調査は人の手によって行われるため、大きなコストがかかることが課題となっていました。
ところがこれらの課題は、スマートフォンの人流データを使うことにより、出店を検討しているエリアにおいて、どれくらいの数の人が行き交っているのかなど店舗周辺エリアの人の流れがこれまで調査に費用も時間も発生していた課題を低コストで簡単に調べられる時代となっています。
出店戦略で利用されるさまざまなデータ
なお、人流データのほかにも、道路を行き交う車や人をカメラで撮影し、AIで通行量をカウントするシステムなど、他の手法も進化しつつありますが、やはり現地に人を派遣したり、機材を設置したりする手間とコストを省けるスマートフォンの人流データのほうがコストパフォーマンスに優れています。
また、統計データと比べても、たとえば居住者の人口は、必ずしもその街を行き交う人々の数に比例しているわけではなく、ベッドタウンであれば平日昼間は大都市に行って働いている人が多いため通行量は少ないことが予想されるし、休日も別の街や郊外へショッピングに出かける人が多ければ、居住者人口と実際の通行量とは大きな差が生まれる可能性があります。人流データならば実際に街を行き交い、滞留している人の数を時間帯ごとに細かく把握できるため、実状に合った立地調査を行うことができます。
人流データはコストを抑えられるため、より広範囲に多くの地点について調査を行えるのもメリットです。広い視野で街を見ることにより、もしかしたら当初想定していた出店エリアとは別に、もっと多くの売上が見込めるエリアを新たに発見できるかもしれません。さらに、出店候補地だけでなく、既存の競合店を訪れる人の数を調べることも可能です。
まとめ
これまでGISを活用した商圏分析による立地調査は、統計データや店舗データなど複数のデータを組み合わせて選定するという考え方でしたが、人流データを使って実際に街のどのエリアにどれくらいの人が通行しているのかを手軽に把握できる時代になったことにより、まずは人流データ分析をもとに通行量の多いエリアを出店候補地として選定し、それから他のデータを使って絞り込んでいくという、人流データを重視した出店戦略を採用する企業も増えつつあります。
なお、人流データを活用した商圏分析は、新規出店の立地調査だけでなく、出店後のエリアマーケティングや、既存店舗の売り上げ分析などにも役立てることができます。これについてはまた次回お話ししましょう。
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