都市の交通計画や開発を進める上で、人々の移動パターンを正確に把握することは非常に重要です。人流分析で扱うデータソースには、スマートフォンアプリからユーザーの許可を得て収集される位置情報ビッグデータのほかにも、携帯電話の基地局情報やWi-Fiの接続情報などさまざまなものがあります。その中でも、スマートフォンなどのデジタルデバイスを介さずアンケート形式で収集される調査として、国土交通省が提供する「パーソントリップ調査(PT調査)」があります。
本記事では、そのデータを可視化・分析できるウェブサイト「都市交通調査プラットフォーム」について詳しく解説します。また、PT調査の活用方法や課題、そして最新の人流データとの組み合わせによる新たな可能性についてご紹介します。これらの情報を通じて、都市計画やビジネス戦略におけるデータ活用のヒントを探っていきます。それでは、詳しく見ていきましょう。
パーソントリップ調査とは
パーソントリップ調査(PT調査)とは、都市における人の移動に着目した調査であり、「どのような人が」「いつ」「どこからどこへ」「何の目的で」「どのような交通手段を使って」移動したのかを調査してまとめたものです。PT調査は1967年に広島都市圏にて初めて本格的な調査が行われ、以後は全国各地において実施されてきました。
PT調査は都市圏における人の1日の動きや交通機関の利用状況を把握・予測するための調査で、世帯や個人の属性に関する情報と移動状況をセットで調査することにより、複数の交通手段の乗り継ぎや使い分けの状況を把握することが可能です。そのため交通需要の予測や都市交通マスタープランの作成など、都市に関する大局的な施策を検討する用途には適しています。
ただし、調査を行う頻度はおよそ10年に一度で、頻繁に行われる調査ではないため、商圏調査などで最新のデータが必要な場合はスマートフォンの位置情報ビッグデータから得られる人流データのほうが適しています。商圏調査に利用する場合は、スマートフォンの人流データを補うものとして参考にするといった使い方が良いでしょう。
都市交通調査プラットフォームの開設
国土交通省は2023年11月、このPT調査のデータを可視化・分析するツールを提供するためのウェブサイト「都市交通調査プラットフォーム」(https://ptplatform.mlit.go.jp/)を開設しました。これまでの都市交通調査は、交通施設の必要性などを検討するために利用されてきましたが、近年のテレワークの普及やデジタル化により移動を伴わない活動が増えたため、人々の移動と活動に乖離が生じていることや、ビッグデータを活用したシミュレーション技術が進展していることなどを踏まえて、都市交通調査の統合プラットフォームの必要性が高まり、同サイトが設置されることになりました
パーソントリップ調査データの可視化・分析ツール
「マップでみる」で地域の傾向を地図上で比較
都市交通調査プラットフォームでは、データ分析のスキルを持たない人でもPT調査のデータを容易に扱える「可視化・簡易分析ツール」が提供されています。2024年10月現在、都市圏データについては「第5回仙台都市圏PT調査(2017年度)」と「第5回北部九州圏PT調査(2017年度)」の2種類が公開されています。
可視化・簡易分析ツールでは、「マップでみる」と「グラフでみる」の2つのツールが提供されています。「マップでみる」では地域ごとの傾向について地図上で比較することが可能で、「外出率(外出した人の割合)」や「移動回数」、ある地域を出発するトリップ(人の移動)の量を示す「発生量」、ある地域に到着するトリップの量を示す「集中量」、発生量と集中量を足した「発生集中量」、「移動時間」の6指標を表示できます。
休日調査を実施した都市圏では平日・休日の切り替えが可能で、可視化するデータを年齢や移動目的、交通手段、時間帯などのフィルターも絞り込むことも可能です。また、データを可視化した状態の画像をダウンロードすることもできます。
「グラフでみる」でデータを視覚的に把握
「グラフでみる」では、都市圏および表示する地域、発生量や集中量などのフィルターを指定することにより、全域または地域別の指標値およびグラフが表示されます。指標値は、外出した人の割合や移動回数などの総合的な指標と、公共交通および自動車のトリップ数・平均移動時間が表示されます。
グラフは外出率や移動回数、トリップ数、代表交通手段別トリップ数および構成比、目的種類別トリップ数および構成比、移動の長さ別トリップ数、移動時間帯別トリップ数などが可視化されます。
PT調査データの集計データツールの提供
パーソントリップ調査の集計データを任意の表示項目で抽出し、ダウンロードできる「集計データダウンロードツール」も提供されています。同ツールはアカウント登録により無料で利用可能です。
利用者は、集計条件を指定して希望の形でデータを集計できます。また、特定の地域を指定してデータを抽出できるほか、外出率や原単位(1人・1日ごとの平均トリップ数)、発生集中量、OD交通量(出発地と到着地をまとめたデータ)、鉄道駅交通量の5つの指標について、平日・休日やゾーン(地域)、性別、年齢など10項目の中から複数のクロス項目を選択し、ニーズに応じた集計が可能です。
集計結果のページでは、さらに項目を指定してデータを絞り込むことができ、下部の「絞り込み結果ダウンロード」ボタンをクリックすることでExcel形式のファイルをダウンロードできます。また、「全件ダウンロード」ボタンをクリックすれば、絞り込む前のすべてのデータをダウンロードすることも可能です。
このほか、ゾーン情報として区分けがわかる全体図や、shp形式のGIS(地理情報システム)データ、Excel形式のゾーンコード表などもダウンロードできます。集計データダウンロードツールで集計できるのは、2024年11月現在で「第5回仙台都市圏PT調査(2017年度)」となっています。
調査支援ツール集や活用事例も掲載
さらに、地方公共団体に向けた調査支援ツール集も用意しています。提供されている調査支援ツールは、都市交通調査を行う際の指針となる「都市交通調査ガイダンス」、都市交通調査のマニュアルを作成する際の参考として使える「マニュアル作成のポイント」、データ品質確保と調査効率化を目的とした「標準調査項目及びデータレイアウト解説書」、調査票や調査配布物のサンプルなどです。このほか、PT調査データの活用を支援するツールも紹介しています。
また、PT調査の活用事例を紹介するコーナー「調査事例・活用事例・Tips」も設けています。このコーナーでは2024年11月現在、松山市および山形市の事例インタビューを掲載しており、両市がこれまで行ってきたPT調査の概要やPT調査を都市計画にどのように活かしているかを紹介しています。例えば山形市ではまちづくりや交通分野だけでなく、観光や健康分野の部署でもPT調査の結果が活用されているそうです。
今後のデータ公開と活用の可能性
現在、都市交通調査プラットフォームで扱っているデータはまだ少ないですが、今後はほかのエリアのデータの公開も進んでいくことが予想されます。スマートフォンの人流データを組み合わせることで、地域の特性を理解する上で参考にしてください。
人流データとの組み合わせで広がる可能性
PT調査データは都市計画や交通施策の基礎資料として有用ですが、調査頻度が約10年に一度と低く、最新の動向を把握するには限界があります。そこで、近年データの活用が進む人流データと組み合わせることで、より詳細で最新の移動パターンを捉えることが可能となります。
例えば、PT調査データでゾーン間のOD交通量(ある起点から別の終点への移動量)を確認した上で、起点から終点までどのような経路を辿ったのかを人流データを活用して詳しく把握するといった使い方などが考えられます。
また、PT調査では、交通行動と、移動目的や家族構成、免許所持状況など交通行動に影響を及ぼす要因を同時に取得することが可能なため、人流データで判明した交通実態について、PT調査を組み合わせることによって住民がなぜそのような行動を取るのか原因を特定できる可能性があります。
本記事で紹介したオープンデータや人流データを上手く活用することで、商圏分析やエリアマーケティングにおいてもこれまで以上に効果的な戦略立案が期待できます。また、地域の活性化やビジネスの発展にも活用が始まっている為、この機会に活用してみてはいかがでしょうか。