人流データのもとになる位置情報ビッグデータをスマートフォンから収集する上で、GPSやWi-Fi、携帯基地局などさまざまな技術がありますが、その一つとして、屋内や地下などGPSが届かないエリアでも活用できる「Beacon(ビーコン)」があります。本記事では、Beaconの概要を解説し、位置情報を収集するプロセスや活用事例について説明します。
Beaconの概要
Beacon(BLE Beacon)とは、スマートフォンなどで使われているBluetooth Low Energy(BLE)の電波を利用して通信を行う小型端末を意味します。英語の”Beacon”とは、本来は灯台や標識塔など周囲から目立つ目印となるようなものを意味し、登山において雪崩で埋もれてしまったときに発見されやすくするための電波発信機などもBeaconと呼ばれますが、ここではスマートフォンの位置情報収集に活用されるBluetoothに対応したデバイスについて解説します。
ビーコン(Beacon端末)は、電波で固有のID情報を一定間隔で周囲に発信し続けており、これを店舗に設置することで、来店客のスマートフォンがBeaconの電波を受信して、当該のスマートフォンユーザーが特定のエリアにいることを検知します。
逆に、オフィスや工場において人がBeacon端末を持ち歩き、スマートフォンを固定局として特定エリア内の人の動きを収集する手法もあります。その他にも、Beaconの技術を活用した紛失予防タグが市販されており、鍵や貴重品などに取り付けておくことで紛失した際にスマートフォンを使って探すことができます。
位置情報マーケティングにおけるBeaconの役割と設置場所
位置情報マーケティングにおいては、前述したように固定型のビーコン(Beacon)端末を店舗や施設内に設置し、近くを通る不特定多数の人が持ち歩くスマートフォンと通信し、その位置情報を収集する手法が一般的です。Beaconは電波を一定間隔で発信し続けるシンプルな仕組みを持つため、端末の故障が少なく、安価で消費電力も低いため、広く普及しています。街中の小売店や飲食店、ショッピングセンター、交通機関、自動販売機、デジタルサイネージなど、さまざまな場所に設置され、日常的に活用されています。
また、異なる事業者が設置したビーコン情報を統合し、相互利用できるプラットフォームも提供されており、これにより複数企業がビーコン情報を共有し、顧客の行動を分析することが可能になっています。このような仕組みは、店舗のマーケティング施策や来店促進に役立っており、位置情報マーケティングの幅を広げる手法として注目されています。
Beaconによる位置情報収集の仕組み
Beacon端末の多くは電波の強度を設定することが可能です。BLEの最大通信距離は200~300m程度と言われていますが、電波強度を上げすぎると離れた場所にいる人のスマートフォンも反応してしまうため、店舗や施設の広さに応じて5~50m程度に設定されることが多いようです。
Beaconは用途や環境にあわせて最適な場所に配置することにより、様々な場面に対応可能です。たとえば1つの店舗内において、入口や奥のレジ横などBeaconを複数の箇所に設置することで、来店客が店内をどのようなルートで動くのかを把握することができます。ショッピングセンターなど大規模商業施設の中で来店客の行動パターンを分析することも可能で、分析結果をもとに広告配信などのマーケティングに役立てることができます。
Beacon対応アプリとユーザーの同意
Beacon情報を収集するには、それに対応したスマートフォンアプリが必要となります。Beaconに対応したアプリは、ショップやショッピングセンターの販促アプリやクーポンアプリなど様々なものがあり、Beacon対応のSDK(ソフトウェア開発キット)で開発されたものも多いです。なお、これらのアプリでは、アプリインストール時に位置情報の利用についてユーザーに許可を取った上で収集しているものが多く、勝手にユーザーの位置情報が収集されてしまうわけではありません。
主なBeaconの通信規格
Beaconの通信規格としては、Appleの「iBeacon」、Googleの「Eddystone」、LINEヤフーの「LINE Beacon」などの通信規格があり、各プラットフォームでさまざまな利用シーンに対応しています。
Beaconの活用方法
Beaconは主に「プッシュ通知による情報配信」で活用されることが多く、ユーザーがBeacon設置店を訪れると、スマートフォンにクーポンが配信されたり、来店ポイントが付与されるなどして購買意欲を高めることに活用されているケースが多くあります。
店舗周辺での情報配信による集客効果
Beaconの電波が届く範囲を広げることで、店舗に直接訪れる客だけでなく、周辺を通る潜在的な顧客に対してセール情報や特典を配信することで、集客につなげることもできます。さらに、インターネット広告やクーポンの配信を行った対象が、その後どれくらい実際に来店したかの効果検証も行え、オンライン広告が実際の来店にどの程度つながったかをBeaconで計測することができます。
店内動線分析と人流データの活用
店舗内の複数箇所にBeaconを設置することで、来店客が店内をどのように移動しているかを把握しやすくなり、効果的なレイアウトや商品配置の設計に役立つことができます。さらに、ショッピングセンター内の人流を分析し、館内の人の流れを把握することで、最適な店舗配置やマーケティング戦略を考案する材料として活用したりと、様々な活用法があります。。
GPSやWi-Fi、基地局情報との違い
スマートフォンで位置情報を収集する方法としては、BeaconのほかにGPSやWi-Fi、携帯電話の基地局情報などがあります。GPSは屋外における代表的な測位技術ですが、衛星電波が届かない屋内や地下では利用が難しいという制約があります。一方、Wi-Fiや携帯基地局情報は屋内外問わず利用できますが、位置精度にばらつきが生じやすいという課題があります。
Beaconの強みと課題
Beacon利点は、前述したように電波強度の調整が可能で、屋内でもある程度ピンポイントに位置情報を取得しやすいという点が強みです。例えば、地下街に出店している店舗の来店計測には、こうした特性が適しています。さらに、特定エリア内での来訪状況の把握にも適しています。
セキュリティ面での課題と対応策
一方で、BeaconはBLE(Bluetooth Low Energy)のオープンな仕様により、IDのスキャンが容易で、なりすましなどのセキュリティ面で課題が指摘されています。これを補うために、独自のセキュリティ技術を搭載したBeaconや、Wi-Fiなど他の通信技術と組み合わせたハイブリッド型のBeaconも登場しています。
近年では、Bluetoothの暗号化技術の脆弱性が問題視されており、スマートフォンでBluetoothを常時オンにすることでユーザーの追跡リスクが高まる可能性も指摘されています。しかし、Beaconが機能するためにはスマートフォンユーザーが移動する際に、常にBluetoothをオンにしておく必要があるため、このような懸念から、Bluetoothを必要時以外にはオフにするユーザーも増えています。
BeaconとGPSのデータ連携の限界
Beaconによる検知で取得した位置情報と、GPSで取得された位置情報をもとに生成された人流データとは、相互に連携することが難しい点にも注意が必要です。特定エリアにおいて、Beaconを検知したスマートフォンの数とスマートフォンのGPSで取得した位置情報データの数は異なものであり、それぞれの方法で得られる位置情報のひとつひとつを相互に一致させることは基本的にできないため、Beaconで検知されたスマートフォンが店舗を訪れる前にどこから来訪し、どこへ向かったかを把握することは難しいとされております。そのため、広域においての人流分析を行う用途には向いていません。
広域分析への対応方法とBeaconの補完的役割
Beaconによる位置情報を収集するプラットフォーム提供事業者の場合でも、GPSなど他の位置情報を補完的に収集しているケースが多いです。こうして得られた位置情報は、GPSやWi-Fiデータと組み合わせることで精度を向上させ、広域での人流分析や詳細な位置情報収集に役立てられています。Beaconは、こうした多様な技術と位置情報データを補完的に用いることで、より効果的なデータ分析が可能になると考えられています。
まとめ
Beaconは、屋内や地下などGPSが届きにくいエリアでの位置情報収集に大きな役割を果たしています。しかし、広範囲のエリアや屋外を含む詳細な人流分析には、Beaconだけでは補いきれない部分もあり、GPSやWi-Fi、基地局情報など複数の技術を組み合わせたアプローチが最適です。
クロスロケーションズでは、GPSデータを基盤とした高精度な人流分析を提供しており、屋外での精度の高い位置情報データに加え、Beaconによる位置情報も補完的に活用することで、幅広いエリアでの人流データ分析が可能です。これにより、マーケティング戦略や店舗開発、エリア分析といった幅広い用途で、精度の高い位置情報データをご活用いただけます。
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