多くの業界で活用が進む「人流データ」は、ビジネスや公共分野で大きな注目を集めています。マーケティングや出店計画、店舗運営、都市計画など、あらゆる分野で急速に活用が進んでいます。これは、人の動きや行動パターンを把握し分析することで、より的確な戦略立案や運営の効率化が実現するためです。では、この「人流データ」は具体的にどのように取得され、どんな技術によって支えられているのでしょうか。
人流データのもとになるのは、スマートフォンやIoTデバイスから収集される膨大な位置情報ビッグデータです。これらの情報を基に、特定の場所や地域でどのように人が動き、どれくらい滞在しているのかを分析します。商圏分析や顧客行動の把握にとどまらず、社会問題の解決や地域課題への対策など、幅広いシーンで重要な手がかりとなるデータとしても注目されています。
本記事では、ジオ専門ライターの片岡義明氏の専門的な視点を交えつつ、「人流データとは何か」、そしてその重要性や応用技術について掘り下げます。最新の位置情報テクノロジーである「ロケーションテック」の発展によって、人流データがどのように収集・解析され、ビジネスや社会を革新するインサイトをもたらしているのかを詳しく見ていきます。
人流データとは?
人流データとは、人が「いつ」「どこで」「どれだけ滞在し」「どのように移動しているのか」を把握できるデータのことです。このデータを解析することで、人の流れや行動を時系列や場所ごとの動きを可視化し、グラフやチャートなど一目でわかる形に変換したり、地図上のヒートマップなどに視覚化することで、マーケティングや地域施策の立案に役立つ深いインサイトを得られます。
例えば、ある商業施設を訪れる来訪者の性別・年代構成を調査すれば、ターゲットごとの集客戦略や販促施策をより効果的に立案できます。また、特定地域への人口流入や流出を正確に把握することで、都市計画や地域活性化の方針にも活かせるでしょう。このように、人流データはビジネスだけでなく公共分野でも重要視されており、効率性や収益性の向上につながるデータとして高い注目を集めています。

人流データ活用の重要性
人流データを利用して継続的に人の動きや流れを分析することは、多くの企業や自治体にとって欠かせない情報源となっています。たとえば、流通・小売業界ではリアルタイムの行動分析により消費者の体験価値を高め、行政機関や観光業では混雑回避や地域課題の解決に取り組むなど、官民問わず幅広い分野での活用が期待されているのです。その結果、人流データはビジネスだけでなく、社会課題の解決にも大きく貢献する存在として注目されています。
人流データ分析に利用される位置情報データの種類
人流データのもとになる位置情報データの収集方法は多岐にわたります。スマートフォンのGPSやWi-Fi、ビーコン、携帯電話の通信基地局など、さまざまな環境から集めた位置情報を匿名化し、統計的に利用することで人流データが生成されます。ここでは主な4つの収集手法を紹介します。
1. スマートフォンのGPSによる測位
スマートフォンには現在地を把握するGPS機能が搭載されており、地図やナビゲーション、SNS、ライフログ、ゲームなど多種多様なアプリがこの測位機能を活用して便利なサービスを提供しています。これらのアプリからユーザーの同意のもと収集した匿名の位置情報を、人流データとして利用します。GPSの精度は周囲の建物や衛星の配置状況により変動しますが、一般的に1~10m程度と言われています。
2. 携帯電話の基地局情報
携帯電話各社は、モバイルネットワークの基地局ごとに端末の数を算出し、それをもとに人口推計することで人流データとして活用しています。基地局情報はスマートフォンとは違ってGPS機能がオフの状態でも基地局に認識されることに加えて、GPS機能のない従来型携帯電話の情報を得られるのもメリットです。ただし、GPSに比べると位置精度が劣るため、小規模エリアをピンポイントに分析するのには不向きです。また、データが特定の携帯電話会社や契約者に偏りが生じる留意が必要です。
3. Wi-Fiアクセスポイントへの接続情報
街中のWi-Fiアクセスポイントに接続した端末の情報も、人流データとして活用されています。Wi-Fiは屋内や地下街などGPSや携帯電話の電波が届きにくい場所でも位置情報を取得することが可能で、Wi-Fiアクセスポイントの名称(SSID)などにより店舗も判別できます。また、Wi-Fi接続サービスの中には訪日外国人向けに提供しているサービスもあり、それを使って得たデータを用いることで訪日外国人だけに絞った人流解析を行えます。
4. ビーコン(Beacon)の接続情報
施設内に設置したビーコンは、スマートフォンに搭載されているBLE(Bluetooth Low Energy)機能を通じて端末の位置情報を取得できます。対応アプリでビーコン接続を認識した位置情報を収集したものが人流データとして活用されています。特に店舗や施設内での行動や動向を追跡・分析するのに役立ちます。
人流データを活用する技術
クロスロケーションズは、数千種類のスマートフォンアプリから得られる国内月間9,300万IDの位置情報ビッグデータを高度なAIで解析し、人流データの分析サービスを提供しています。特定エリアや施設での人の流れを的確に捉えることで、事業戦略やマーケティング施策に役立つインサイトを得られます。
位置情報ビッグデータを活用した革新的な技術分野は「ロケーションテック(Location Tech)」と呼ばれています。スマートフォンやIoTデバイスなど、多様な機器から得られる膨大な位置情報をもとに、新たなサービスやビジネスモデルが次々と生まれています。次に、このロケーションテックについて動画をご紹介します。
Location Tech (ロケーションテック)とは
ロケーションテックは、位置情報(Location)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、位置情報データを活用して人々の行動パターンや動向を分析し、ビジネスや社会に応用する革新的な分野を指します。
これにより、マーケティング施策や都市計画など、多岐にわたる領域で意思決定を効率化し、高い価値を生み出すことが可能になります。
位置情報ビッグデータの持つ可能性は非常に大きく、企業や自治体が未来に向けた革新を実現するための重要な基盤です。ロケーションテックの役割について、詳しくは上記の動画でご覧いただけます。
人流データ分析におけるプライバシー保護の取り組み
人流データを活用した分析では、取得した位置情報データに含まれる緯度・経度情報やタイムスタンプ(時間の刻印)に加え、場合によってはユーザーの属性データなど他の情報も組み合わせることがあります。それらのデータは、アプリインストール時や携帯電話加入時、Wi-Fiサービス加入時などに取得される情報をもとにしています。
しかし、プライバシー保護は最優先事項です。そのため、利用している位置情報や属性などの取得情報は、ユーザーから承諾を得た上で取得され、さらにプライバシー保護の観点から、運用データには氏名などの情報を匿名化する「非識別化処理」や、調査対象の数が少なく個人情報が推測される恐れがある場合には数値をゼロに置き換えるといった「秘匿処理」などが施され、厳格な手順を経て運用されます。

クロスロケーションズは、位置情報ビジネスの促進を目的とした事業者団体LBMA(Location Based Marketing Association)の日本支部であるLBMA Japanに設立当初から参画し、ここで策定されたガイドラインに準拠しつつ、独自の厳格な情報管理・活用基準を設けています。これにより、プライバシー保護には極めて重点を置きながら人流データを運用しています。
目的に応じた人流データの分析
広範囲を把握する「メッシュ分析」
人流データを分析する代表的な手法の一つに、広範囲のエリアを数百メートル四方のメッシュ(格子)単位でエリアを区切り、それぞれに含まれる人流を算出する「メッシュ分析」があります。この手法は、広範囲の人の動きをおおまかに把握するのに適しており、以下のような用途で活用されます。
- 人が多く集まるエリアを把握し、新規出店候補地を検討する
- 駅や商業施設などの開設や幹線道路の開通前後で街中の人流を比較する
- タクシーが乗客を獲得しやすいエリアを推定する
- イベント開催時の人流予測を行い、警備体制の強化や公共交通機関の増便計画に役立てる
- 災害発生時の人の動きを分析し、最適な避難ルートを検討する

しかし、メッシュ分析だけでは特定の店舗や施設の来訪者動向を正確に把握しづらい場合があります。なぜなら、メッシュ単位でまとめられた人流データには、目的の施設に実際に入店した人だけでなく、周辺に含まれる異なる施設や道路を通過した人など、関連性の低い位置情報がそこに含まれてしまうためです。
たとえば、道路に隣接する店舗の来訪者数を把握したい場合、店に入って買い物をした人も、店の前を通っただけの人も同じメッシュ内でカウントされる可能性があります。これでは実際の来訪者数との差が生じるため、店舗単位の詳細な分析には向いていません。こうした課題を解決し、より精度の高い来訪者動向を把握するためには、特定の地点やスポットに焦点を当てる「ピンポイント分析」や「スポット分析」が重要になります。
ピンポイント分析による「スポット分析」の重要性
こうしたメッシュ分析の限界を補うため、クロスロケーションズでは独自の手法により、分特定の施設や店舗、地域をピンポイントで指定し、そのエリア内で検出した位置情報だけを抽出するPOI(Point of Interest)分析を行っています。また、円形や多角形など複雑な形状、複数地点にも対応可能で、スマートフォンのGPSデータをもとにエリア内に入ったと判定(イン判定)した位置情報の解析を行うことで、より精度の高い人流分析が可能となります。

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ピンポイント分析に有効な活用方法
- 平日と休日の来店者数を比較して、購買傾向を把握する
- 競合店舗との来店者数比較
- 来店者の居住エリアを特定
- 広告やクーポン配布、販促キャンペーンの効果検証
- イベント前後、コロナ禍前後など特定期間の人の動きを比較
- 過去の人流データをもとに施設の混雑状況を予測
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特に、基地局情報などに比べて精度の高いスマートフォンのGPSデータを活用すると、関連性の低い位置情報を排除しやすくなり、分析結果の信頼性が大幅に向上します。クロスロケーションズはこのピンポイント分析を「POI(分析対象となる地点)分析」と位置づけ、多様な業種のニーズに合わせて柔軟に対応しています。
店舗や施設ごとの利用動向を詳細に把握するには、こうしたスポット単位での分析が不可欠です。大まかなトレンド把握に向くメッシュ分析と、特定スポットを深掘りできるPOI分析を使い分けることで、さまざまなシーンに最適な人流データの活用が可能になります。
ピンポイントの人流データ分析ならではの機能
クロスロケーションズの人流分析では、ピンポイントな地点から広域まで、さまざまな範囲で人流統計データをAI解析し、いつでも多角的な分析を行うことができます。代表的な機能を2つ紹介します。
人流データ分析:[バードアイ人流]エリア密集マップ
まちの人の密集度を瞬時に地図上に可視化する機能です。この分析では、知りたいエリアの人流を地図上から選択して、範囲を指定するだけでエリア内の人の多いエリアが瞬時に把握できます。この機能は、効率的なオペレーションやマーケティング施策を検討している企業や自治体の担当者に役立つ機能です。

人流データ分析:Hot Place ランキング
分析対象施設を訪れた人が「他にどのエリア・店舗を併用しているか」をランキング形式で表示する機能です。たとえば「ららぽーと福岡」来訪者のうち何%が近隣の「イオンモール福岡」にも訪れているのかを可視化し、関連施設の利用状況を確認できます。このようにメッシュ分析だけでは得られない詳細な併用先の把握が可能です。

<Hot Place ランキング 分析結果の補足情報>
上記の図は、2022年4月25日にオープンした「ららぽーと福岡」を「Hot Place ランキング」で分析してた結果です。分析結果から、対象期間に「ららぽーと福岡」への来訪者の11%が、約5.1km離れた近くの粕屋町のエリアを訪れており、この場所にある「イオンモール福岡」に訪れていることが確認できます。
このように、「ららぽーと福岡」の来訪者が「イオンモール福岡」にも多く訪れていることを位置情報の記録を基に周辺の関連施設の行動記録と比較することで関連性の高い店舗施設の状況を把握することができます。
多様なアプリから得られる位置情報データの組み合わせ
クロスロケーションズでは、複数のデータ・プロバイダー(スマホアプリ開発会社など)から匿名化された状態で幅広いアプリの位置情報を取得し、独自の手法で統合・解析することで、ピンポイント分析を実現しています。
特定の携帯電話会社や単一のアプリに依存しないため、データの偏りが少なく、業種ごとのニーズに合わせて信頼性の高い人流分析が可能です。

人流分析サービスの提供会社の中には、データ・プロバイダーよりあらかじめメッシュ化されたデータを受け取って、それをもとに分析を行っている場合もありますが、クロスロケーションズでは匿名化されたIDと緯度・経度を組み合わせた位置情報データをプロバイダーからそのまま受け取り、イン判定などの高度な処理が必要とされるピンポイント分析を独自に行っています。
また、特定のアプリから収集した位置情報に限定することなく、複数のデータ・プロバイダーから提供を受けているため、特定の携帯電話会社やアプリにデータが偏ることがありません。人流データを活用した分析内容によって分析対象となるデータを選別し、組み合わせを変えることで、幅広い業種のニーズに合わせて精度の高い人流分析を提供することができます。
まとめ:人流データ活用で一歩先のマーケティングへ
本記事では、「【人流データとは】人流データの活用法と重要性」と題し、位置情報ビッグデータがどのように収集・分析され、実際のビジネスや社会にどのような価値をもたらすのかをご紹介しました。GPSや基地局情報、Wi-Fi、ビーコンなど複数の手段で取得した人流データを活用することで、マーケティング施策の効果測定や出店戦略、地域課題の解決など、幅広い場面で新たな視点と成果を得ることができます。
また、プライバシー保護への取り組みや、メッシュ分析・ピンポイント分析といった具体的な手法を通じて、人流データの実践的な活用方法に触れました。広範囲のトレンド把握から特定施設への来訪実態の分析まで、目的や課題に応じた柔軟なアプローチが可能です。
クロスロケーションズは、最新のロケーションテックと独自のAI解析を活用し、さまざまな業種の企業や自治体に向けた人流分析プラットフォームを提供しています。ビジネスの成長や社会課題の解決に向けて、人流データ活用をさらに深めたい方は、ぜひお気軽にご相談ください。
Location AI Platform (LAP)を実際に体験してみませんか?
クロスロケーションズの「Location AI Platform (LAP)」では、豊富な人流データや分析機能を自由に試すことができます。
- デモ体験:専門スタッフのサポートのもと、実際の操作画面で分析の流れを体験できます。
- 無料アカウント登録:すぐに人流分析サービスを始めたい方は、「人流アナリティクス」をご利用ください。登録後は、分析ツールを用いて自社エリアや興味のあるエリアの人流データを手軽に可視化・検証できます。
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