屋外広告の効果測定に役立つ人流データ。広告接触者の居住エリアや行動傾向を把握

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執筆者 片岡義明
屋外広告の効果測定に役立つ人流データ

駅前や繁華街などの人の流れが多い場所に設置される屋外広告(OOH/DOOH)は、長い歴史を持つ広告形態の一つありながら、今なお有効な広告手段として広く使われています。近年ではデジタル技術の進化により、さまざまな形式の広告が登場し、その効果を定量的に測定する手法も進化しています。この記事では、人流データを活用した屋外広告の効果測定について解説します。

INDEX

人流データを活用した屋外広告の効果測定

屋外広告は広告効果が高い一方で、設置場所や時期の選定によって、その効果が大きく異なります。最近では、人流データを用いて屋外広告の効果を定量的に測定する手法が注目されています。これらは、位置情報ビッグデータの技術を活用することで、これまで難しいとされていた屋外の広告効果の数値化や可視化が実現できるようになりました。

これにより、広告の効果を具体的な数字で把握するだけでなく、広告視聴者の属性や居住エリア、行動傾向までを把握することができるようになっています。位置情報ビッグデータを活用することで、これまでは数値化するのが難しかった屋外広告の効果を定量的に計測・可視化することが可能となったことにより、媒体接触者の生活動線の把握やサーキュレーション(広告媒体の普及度合い)の最大化に役立てることができます。

次に、2021年7月に新宿東口に現れた巨大な三毛猫の3D映像は、SNSで話題となりましたが、こちらの屋外ビジョンが設置している新宿エリアを対象に人流データを使ってみていきましょう。

写真. 新宿東口の3D猫 人流調査:https://www.x-locations.com/news/pr20210910/

屋外広告の視認エリア内の人流を分析

人流データを活用することで、屋外広告の設置エリア内の人の流れを詳細に分析できます。施設やビル前、交通量の多い道路など、広告が視認されるエリアにおける来訪者数や時間帯、性別、年代などのデータをリアルタイムで可視化することができます。これにより、広告のターゲット層や効果的な広告展開の戦略を立てる上で貴重な情報を得ることができます。

屋外広告の視聴者効果を人流データを活用して分析

2021年7月、新宿東口に立体的な3Dディスプレイの「新宿東口の猫」が現れた際、クロスロケーションズはこの屋外ビジョンを視聴したとされる視聴者数を人流データを活用して分析しました。分析は、位置情報ビッグデータ活用プラットフォーム「Location AI Platform(LAP)」を利用し、「新宿東口の猫」を視認可能なエリアを上記図のように設定を行い分析を行っています。

新宿東口クロス新宿ビジョンの3D猫が見れる視覚エリアを地図上から人流分析エリアとして登録

人流データを活用して視聴者の動向を把握

人流調査の結果から、広告のテスト放送が開始されてから映像が本格運用されるまでの間に来訪者数が増加していることが確認できました。一方、屋外広告の効果測定は、これまで国勢調査やパーソントリップ調査、駅の乗降者数などの統計情報をもとに効果を推測する方法や、手計測による交通量調査やアンケートなどを使用する方法がありましたが、統計情報はコロナショックなど急激な社会変動に対応することができません。また、交通量調査やアンケートなども手間とコストがかかるというデメリットがあります。

クロス新宿ビジョン周辺の分析エリアに来訪した人の推計来訪数の推移をLAPでグラフ化

ほかにもカメラやWi-Fiなどの機器を現地に設置して計測する方法がありますが、調査のたびに機材を設置するのはコストがかかる上に、計測できる範囲も限られてしまいます。また、インターネット広告が普及したことにより、近年は広告主が非デジタル媒体に対しても、デジタル媒体と同様に効果の数値化を求める傾向があります。

そのような時代のニーズに応えたのがスマホアプリから取得される膨大な位置情報をもとに解析した人流データの活用です。位置情報を解析することで、広範囲にわたってどのエリアにどれくらいの人の流れがあるのかを正確に把握することが可能となり、それをもとに屋外広告の視聴者測定とその効果を説得力のある形で提示することができます。

屋外広告接触者の居住エリアや行動傾向を把握

人流データの活用により、屋外広告周辺の人の流れを調べられるだけでなく、媒体接触者の居住エリアや行動傾向を把握することも可能となります。たとえば「渋谷の屋外広告を見た人は、池袋の屋外広告にも接触する可能性が高い」といった傾向もわかるようになるため、この分析結果をもとに両エリアで同じ訴求を行うなど、これまでは難しかった効果的な広告展開を行うことができます。

人流データを活用した屋外広告の分析は、速報性が高いことや、媒体接触者の性別や年代を把握できることなども特徴で、時間帯別・日別・週別に接触者の動向を把握し、性別や年代にあわせて広告の内容を変更するなど様々な手を打つことができます。

新宿駅東口(3D猫)屋外広告周辺に訪れた来訪者の性別・年代(デモグラフィック)情報
新宿駅南口周辺に訪れた来訪者の性別・年代(デモグラフィック)情報

例えば、前述した「新宿東口の猫」に関する分析において、このエリアを訪れたデモグラフィック(属性)について調べたところ、来訪者の割合は20代が29.2%であるのに対して、同じ期間に新宿南口に訪れた20代は17%という結果になりました。これにより、新宿駅南口に比べて東口のほうが20代の比率が高いことがわかり、広告内容を検討する上で参考にすることができます。

ほかにも、DOOH(デジタル屋外広告)とスマホの位置情報広告を組み合わせるこで屋外広告エリアと連動して周辺エリアにいる人をターゲットにしたリアルタイム広告を配信したり、過去に屋外広告に接触した履歴データを元に広告の配信対象者を絞り込むヒストリカルターゲティングなどの広告配信を行うことが可能です。

デジタルツインとの組み合わせにより最適な広告位置を検討

 人流データを活用した屋外広告の効果測定やデジタル広告施策が普及する中、最近ではデジタルツインと人流データを組み合わせることで、より効果的な広告掲載場所を探す取り組みも行われています。

デジタルツインとは、現実世界をデジタル空間上に再現してモニタリングやシミュレーションなどを行う技術のことで、これを都市レベルで行うことにより、さまざまな課題解決を図る取り組みが進んでいます。国土交通省が推進する「Project PLATEAU(プロジェクト・プラトー)」では、デジタルツインの基盤となる3D都市モデルデータの整備およびオープンデータ化に取り組んでいます。

PLATEAUの3D都市モデルデータを使ってビルなどに設置された屋外広告の視認エリアをシミュレーションし、人流データと組み合わせることで、視認エリア内を通過するユーザーの特性を分析して最適な広告配置の検討に役立てるユースケースも登場しています。

また、最近では鉄道やバス、タクシーなど公共交通機関のラッピング広告や、自家用車にステッカーを貼るマイカー広告なども盛んになっており、今後はこのような移動体による広告の効果測定にも人流データの活用が進むことが予想されます。

まとめ

 街に人の波が戻り活気を取り戻したことで屋外広告は、新しいデジタル技術と創造的なコンテンツで再び注目を浴びています。しかし、広告の場所選びと効果測定はますます複雑化しています。そのような中、位置情報ビッグデータが登場し、屋外広告の視聴者データ解析に大きな変化をもたらしました。

この技術を用いることで、屋外広告の視認エリア内の人流を詳細に分析し、視聴者の人数、時間帯、性別、年代、接触回数、来訪者の居住エリアまでをリアルタイムに可視化することができます。これにより、広告のターゲット設定と効果測定が可能になり、広告主は広告戦略を改善し、費用対効果を向上させることが可能です。

また、この技術により屋外広告接触者が「どこのエリア来ている人が多いのか?」など、媒体接触者の居住エリアを把握したり、その行動傾向を把握することで、屋外広告において視聴者データを元にしたキャンペーン企画を実施することができるようになります。

屋外広告の効果測定に役立つ人流データ分析機能

人流データを活用した屋外広告の視聴者データ解析は、広告業界に新たな可能性をもたらし、効果測定をより迅速かつ正確に行えるようになりました。また、同時に周辺エリアの人に広告を配信するジオターゲティング広告との連動など、この分野の発展は今後も進むことが期待されています。

屋外広告の効果測定に関する情報はこちら

人流データを活用した屋外広告の視聴者データ解析についてご興味のある方は以下、人流分析プラットフォーム「Location AI Platform®(LAP)」をご覧ください。

国内最大級の位置情報を活用したターゲティング広告に興味のある方は「Location Marketing Service」をご覧ください。

片岡 義明

専門新聞社や出版社勤務を経て、1999年よりフリーランスライターとして活動。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」、「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」が発売。インプレスより書籍「パソ鉄の旅~デジタル地図に残す自分だけの鉄道記~」、共著書「いちばんやさしい衛星データビジネスの教本」が発売。地図と位置情報を中心としたニュースサイト「GeoNews」主宰。

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