人流分析の具体的な手法 | 業種別事例で見る人流データの活用術(応用編)

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執筆者 片岡 義明
人流分析の具体的な手法 業種別事例で見る人流データの活用術(応用編)

人々の移動や行動に関する情報を収集する位置情報ビッグデータを基にした人流分析は、店舗マーケティング、交通調査、都市計画などさまざまな分野で活用されています。店舗や施設の来訪者や滞在者の動向を素早く把握するための基礎情報として、人流データは効果的な経営戦略の構築に欠かせません。

この記事では、曜日や時間帯など複数の訪問条件を設定して分析できる人流分析プラットフォーム「Location AI Platform®(LAP)」の「カスタム分析」機能を活用した業種別の事例をご紹介します。人流分析の基礎情報に関する情報については、前回の記事も併せてご確認ください。

INDEX

複数の訪問条件を設定して分析可能な「カスタム分析」機能

カスタム分析は、店舗に訪れた人の性別や年代、居住地などの属性情報を自由にカスタマイズして分析できる機能です。この機能を活用することにより、時間帯や曜日を特定して競合店と人流を比較したり、併用施設を把握したりするなど、これまで把握するのが難しかった気付きや新たな洞察を発見し、戦略立案やマーケティングを行う上で貴重な情報源として活用できます。

現在、人流データを活用したカスタム分析には14種類の機能があります。今回はそのうち7つの機能を紹介します。

商圏分析に役立つ人流データ分析のカスタム機能

[カスタム分析] 来訪者数ランキングマップ

登録した地点(ホーム)への来訪者について、どの地域から来たのかをランキング形式で表示します。マップ上でも推計来訪者数が多い地域に色が付けられるので、どの地域から来訪する人が多いかを一目で確認できます。推計来訪者数のランキングとともに、選択した地域の国勢調査結果の算出も可能で、推計来訪者数の多いエリアの人口や世帯人員数、世帯年収、一戸建て/集合住宅の割合、持ち家/借家の割合などを確認できます。

図. 来訪者のエリアがわかる「来訪者数ランキングマップ」

[カスタム分析] 来訪率分布マップ

ホームへの推計来訪率(AIで推計処理された来訪者の数)が高い地域に色を付けることにより、マップ上で実勢商圏を確認することができます。

図. 来訪率の高いエリアを視覚化する「来訪率分布マップ」

お役立ちポイント

例えば、競合店と自社店舗で来訪率分布マップを比較し、競合店のほうが来訪者が広く分布している場合、それが平日の結果であれば通勤や通学の途中で立ち寄る人が多いことが推察できます。このような顧客の傾向を把握することにより、折込チラシやダイレクトメールを送付するエリアの決定や、キャンペーンの開催などに役立てることが可能となります。

[カスタム分析] ポテンシャルマップ

ホームへの推計来訪率が距離における平均値に比べて高い地域と低い地域を色分けしてマップ上に可視化します。一般的にはホームから離れるほど推計来訪率は低くなることが多いですが、その距離における平均値よりも高いエリアや低いエリアを可視化することで特徴的な地域を浮かび上がらせることができます。

図. ポテンシャルの高いエリアを視覚化する「ポテンシャルマップ」

[カスタム分析] エリア基本データ

ホームと選択範囲(半径)を指定することで、その範囲に含まれる地域の人口や世帯人員数、年収などの基本データを表示できます。CSVデータをダウンロードすることも可能で、各地域の推計来訪率や推計来訪数、ポテンシャルなども確認できます。

図. 知りたい地域の商圏を範囲(半径)毎にわかる「エリア基本データ」

お役立ちポイント

これまでに紹介した上記のカスタム分析機能を活用することにより、店舗や施設を訪れる人がどのエリアから来ているのかを調べられます。

来訪率分布マップは、推計来訪率の高さによって色分けされるため、実勢商圏の範囲を感覚的に理解することができます。一方、ポテンシャルマップでは推計来訪率が平均値とは異なる特徴的なエリアをひと目で把握できます。さらに、エリア基本データと組み合わせることにより、来訪率の高い地域や低い地域の人口や年収など、エリアごとにどのような住民の傾向があるのかを調べることができます。

人流データの便利な点として、自社店舗だけでなく競合他社の店舗の来訪者数も調べられることが挙げられます。他社の店舗の来訪者数ランキングマップや来訪率分布マップ、ポテンシャルマップを自社店舗の分析結果と比較することにより、自社店舗の強みや足りない点が明らかになります。

[カスタム分析] Hot Placeランキング

ホームに来訪した人が他に訪れている場所をランキング形式で表示します。その場所に含まれる店舗などの情報も合わせて確認できます。

図. 来訪者が訪れている他施設の場所をランキング化「Hot Placeランキング」

お役立ちポイント

「Hot Placeランキング」は、自社店舗を訪れている顧客が他にどのような店舗や施設を利用しているのかを分析できます。たとえば店舗を訪れる顧客の多くが近隣の大学を利用していれば、店舗を訪れる客層に大学生が多いことが推察できます。また、併用施設のランキング上位に最寄りの駅がある場合、通勤や通学途中に店舗を利用する人が多いことがわかります。

併用率が高い施設を地図上に可視化することにより、今まで気付かなかった事実が見えてくることもあります。たとえば併用施設が広域に分散している場合は車で移動する顧客が多く、駅近くの狭い範囲に集中している場合は鉄道で訪れる顧客が多いことが推察できます。

車で移動する顧客が多い場合はカー用品を増やすなど、品揃えの参考にもなるでしょう。また、近隣に鉄道会社の異なる複数の駅が存在する場合、どの駅を使って訪れる顧客が多いのかを調べることで営業時間を変更したり、駅構内に広告を出したりと、さまざまな施策を打つことができます。

[カスタム分析] 都道府県別来訪比率

ホームに来訪した人がどこから来ているか、都道府県別に多い順に表示します。

図. 都道府県別の来訪者数比率を把握「都道府県別来訪比率」

[カスタム分析] 市区町村別来訪比率

ホームに来訪した人がどこから来ているか、市区町村別に多い順に表示します。

図. 市区町村別の来訪者数比率を把握「市区町村別来訪比率」

お役立ちポイント

都道府県別や市区町村別で来訪者がどこから来ているのかを分析することにより、さまざまなインサイトを得ることができます。たとえば大規模テーマパークや観光スポットなどにおいて都道府県別来訪比率を調べることで、どの都道府県から訪れる人が多いのかを把握することが可能となり、テレビCMや新聞広告をどのエリアで積極的に展開するべきなのかがわかります。また、地元に密着した中小規模のテーマパークやショッピングセンターなどの場合も、市区町村別来訪比率を分析することで広告戦略に役立てられるでしょう。

ゴールデンウイークの時期は遠くから訪問する人が多いのに対して、年末年始やお盆の時期は地元周辺から訪れる人が多くなるなど、時期による違いも把握できます。さらに、テーマパークの場合であれば競合他社のテーマパークと比較したり、他のエンターテインメント施設と来訪比率を比較したりすることで、自社の特徴を把握することもできます。

業種ごとの具体的な人流データの活用事例

人流データを使ったカスタム分析機能の基本的な使い方は上記で説明した通りですが、これらの機能を上手く組み合わせて活用することにより、業種ごとの様々な目的に応じて活用が可能です。以下に、実際に行われた人流分析の活用事例を紹介していきます。

(1)外食サービス 実勢商圏の把握

直営店を数十店舗、フランチャイズチェーン数百店舗を展開する企業が、ある狭いエリアに2店舗出店し、売上が伸びないという課題を抱えていました。その原因を特定するために、 「来訪者数ランキングマップ」や「来訪率分布マップ」、「ポテンシャルマップ」を使うことで2店舗の実勢商圏をそれぞれ分析するとともに、「Hot Placeランキング」を使うことで2店舗の併用利用についても分析を行いました。

分析の結果、商圏の大きさや位置など多くの部分でカニバリゼーションが発生していることがわかり、併用利用の割合も高く、同じ顧客を取り合っていることが判明。自社アプリのユーザーの来店傾向も同様の結果を示しており、検討の末、片方の店の撤退を決断。

(2)外食サービス 販促施策の向上

ラーメン店や焼き肉店など、複数のジャンルの飲食店を展開する企業が、競合他店がひしめく激戦区において新規顧客を獲得するため、ジャンルごとに競合店を分類して「来訪者数ランキングマップ」や「来訪率分布マップ」、「ポテンシャルマップ」機能を利用して実勢商圏を分析しました。

また、施策では競合店からシェアを奪うため、新規顧客を獲得できるポテンシャルが見込めるエリア選定を行い、それぞれ集中的にチラシのポスティングを実施。キャンペーンの内容は、ワンコインクーポンで統一することで、ジャンルごとの違いがどのように発生したかを検証。

事前の分析を行った上で施策を行った結果、クーポン回収率が以前よりも向上。また、特定のジャンル同士で強い相関があるというインサイトを発見することができました。これにより、無駄の少ない効率的な集客施設の確立を行い、継続的に施策を実施中。

人流分析活用事例_外食サービス

(3)外食サービス 新規出店計画

新たに新規の飲食店を出店するのにあたって、出店候補地の商圏分析として併用率の高い施設を調査。出店候補地への来訪者の併用率が高い施設を抽出したところ、ショッピングモールやスーパー、百貨店、ホームセンター、寿司チェーン店などが該当しました。

人の移動から得られる人流データを活用した分析結果より、競合となり得る店舗として、寿司チェーン店やショッピングモール内の飲食店が多いことを確認。新規出店時の自社のジャンル決定やキャンペーン施策、ポスティングエリアの選定などに採用。

(4)ライブ・エンタメ業界 市場調査

ライブ会場に来場する人は、イベントの前後にどのような駅や商業施設を利用しているのかを調査会社が人流データを活用して分析。特に活用した機能では、来訪した人が、他にどのような場所を訪れているのかを視覚化できる「Hot Placeランキング」を活用。

最寄り駅や近隣各駅と併用する店舗や施設の来訪状況をランキング化するとともに、ライブ会場を訪れた人が駅や商業施設に対してどれくらい訪れているのかを表す“併用率”を算出し、それぞれの併用率を時間帯ごとに分けて可視化。

これらの人流調査により、ライブ会場を訪れる人がどの駅を利用して会場に来場し、そして、どの駅から帰るのか迄を把握するとともに、来場の前後における周辺施設への回遊を分析することでイベントの影響度合いを把握することができました。

また、これらの調査結果は、鉄道会社がライブが行われる日の運行本数を変えたり、ライブ会場を訪れた人に商業施設の割引クーポンを配布するなどの外部を巻き込んだ施策もに活用することが可能です。

人流分析活用事例_公共施設・劇場設計計画コンサルタント

(4)大手スーパー ドミナント戦略

国勢調査データをもとに設計したドミナント戦略(店舗集中戦略)の店舗計画について、出店後に顧客の来店状況について人流データを使って検証。エリア内にある複数の自社店舗を分析。来訪者数が多いエリアを可視化するランキングマップ機能や来訪率分布マップにより、各店舗の実勢商圏を把握した上で、出店計画通りとなっているかをデータに基づいて分析し、投資対効果を明確化。

人流分析の結果から、計画通りの商圏を獲得できていない店舗については、品揃えやチラシ配布の面で課題があるかどうかを調査するなど、その後の店舗運営に役立てています。

まとめ

本記事では、LAPを用いた人流データの応用について様々な業種での具体的な事例を通じて紹介しました。外食サービス業からライブ・エンタメ業界まで、データを活用することで、商圏の分析、販促施策の最適化、新規出店計画の策定、市場調査など、多角的な視点からの戦略立案が可能になります。これらの事例は、データを基にした意思決定がどれだけ効果的であるかを示しています。

興味を持たれた方は、ぜひLAPの人流分析デモやトライアルを体験してみてください。実際に自社のデータを使った分析を通じて、具体的なビジネス改善の機会を発見することができます。

さらに詳しい情報や他の分析機能について知りたい方は、ページ下部のお問い合わせボタンから、サービスデモや詳細情報の問合せが可能です。データを活用した新たなビジネスチャンスを、LAPとともに探求しましょう。

片岡 義明

専門新聞社や出版社勤務を経て、1999年よりフリーランスライターとして活動。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」、「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」が発売。インプレスより書籍「パソ鉄の旅~デジタル地図に残す自分だけの鉄道記~」、共著書「いちばんやさしい衛星データビジネスの教本」が発売。地図と位置情報を中心としたニュースサイト「GeoNews」主宰。

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